手術当日の朝
翌朝6時。
病室の電気が一斉につきました。
いつもと違う朝。
家族ではなく、同じ病気と戦っている人たちと交わす「おはようございます」。
それだけで、少し不思議な気持ちになります。
顔を洗い、歯を磨く。
いつも通りの動作なのに、どこか現実味がありません。
7時。
同室のみんなが朝食を取っている中、私はひとり、9時からの手術に向けて心の準備をしていました。
同室の患者さんたちは、今日が私の手術だと知っています。
「頑張ってね」と声をかけてくれました。
先に経験している“先輩”がいると思うと心強い。
それでも、やはり気持ちは沈んでいました。
予定の9時になり、看護師さんが部屋に入ってきました。
私の中では、TVドラマの影響もあり、
「手術室へはベッドのまま運ばれていくもの」
というイメージがありました。
けれど実際は違いました。
看護師さんが迎えに来てくれて、私は自分の足で歩いて手術室へ向かうのです。
家族とは病室の6階で別れました。
きっとみんな心配している。
だから私は、なるべく明るく言いました。
「行ってくるね」
まるで近所に出かけるみたいに。
エレベーターに乗り込み、扉が閉まるその瞬間まで手を振りました。
――まあ、死ぬことはないだろう。
ちょっと変化するだけだ。
そう自分に言い聞かせながら、静かに二階の手術室がある階へ下りていきました。
手術室の扉を開けます。
(ここが手術する場所かあ)
そう思いました。
入ってすぐ左側に着替える場所があり、
私はパンツ以外をすべて脱ぎました。
髪の毛を収めるため青い帽子をかぶり、手術着に着替えます。
手術室はいくつか並んでいて、そのうちの一つの部屋へ案内されました。
私は自分の足で手術台まで歩き、自らそこに上がりました。
横たわり、上を見上げると、テレビで見たことのあるような大きな照明がありました。
これが今から光るのだと思いました。
室内にはクラシック音楽が流れ、看護師さんや麻酔担当の方が忙しく準備をしています。
看護師さんが安心させるように声をかけてくれました。
点滴の準備が進み、麻酔の注射が始まります。
その最中、先生が手術用のマスク姿で現れました。
私は言いました。
「今日はよろしくお願いします」
その直後、口と鼻を覆う大きな透明の麻酔用マスクが顔に当てられました。
息をするたび、内側がふわっと曇ります。
「このまま普通に呼吸してくださいね。10秒数えてみましょう」
そう言われて、心の中で数え始めました。
――1、2、3。
そこまで数えたあたりで、意識がすっと遠のいていきました。

